退職金を上手に受け取る方法とは?課税の違いや選び方を解説
老後生活における貴重な資金源となるのが、退職金です。退職金は、勤務先や制度が定める範囲内で一括受取と分割受取、あるいはその両方が選択できます。
退職金の受け取り方によって、課せられる税金の計算方法や、老後に支払う社会保険料への影響などが異なるため、ご自身に合ったものを選ぶことが大切です。
本記事では、退職金の受け取り方法による違いや、受取方法の選び方などを解説します。
【目次】
老後資金として活用できる制度
退職金の支給方法は、一括で支給される「退職一時金制度」と、一定の期間または一生涯にわたって年金が支給される「企業年金制度」の2種類です。
企業年金制度には「確定給付企業年金」や「確定拠出年金」などの種類があります。まずは、勤務先が採用している退職金の種類や、選択できる受取方法を確認しましょう。
自営業やフリーランスに退職金はありませんが、老後のためにiDeCoや小規模企業共済で準備をしている方もいらっしゃるでしょう。iDeCoや小規模企業共済も、企業から支給される退職金と同様に受け取り方を選択できます。
退職金の受け取り方によって税金の計算方法が異なる
退職金を受け取った場合、給与や老後の年金と同じく所得税や住民税の課税対象です。
所得税や住民税は、収入から一定の金額を控除して算出する所得に、所定の税率をかけて計算します。退職金の受け取り方によって、課税の対象となる所得の計算方法が異なるのです。
退職金を一括で受け取った場合
退職金やiDeCoの老齢給付金などを一時金で受け取った場合、「退職所得」とみなされて、給与所得や一時所得と分けて税金が計算されます。
退職所得の計算方法は、以下のとおりです。
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(退職金額-退職所得控除額)×1/2
退職金に相当する金銭を同じ年に2種類以上受け取っている場合は、合算された金額から退職所得控除が差し引かれます。
退職所得控除額は、勤続年数によって異なります。
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勤続年数20年以下の場合:40万円×勤続年数(最低80万円)
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勤続年数20年以上の場合:800万円+70万円×(勤続年数-20年)
例えば、勤続年数38年である人が、定年退職時に2,500万円の退職金を受け取った場合、退職所得の金額は、以下のとおりです。
◯退職所得控除
=800万円+70万円×(38年-20年)
=2,060万円
◯退職所得
=(2,500万円-2,060万円)×1/2
=220万円
このように一括受取の場合、所得税や住民税の課税対象となるのは、2,500万円のうち220万円です。一括受取では、退職所得控除が適用されるため、課税の対象となる所得の金額が低くなります。
なお年をずらして複数の退職金を受け取った場合の退職所得の計算方法は、別の機会に解説いたします。
退職金を分割で受け取った場合
退職金を年金で受け取ると「雑所得」として、公的年金やその他の所得と合算されて税額が計算されます。
課税対象となる雑所得の金額は、公的年金を除いた所得の合計金額や、年金を受け取る人の年齢によって計算方法が異なります。
公的年金を除いた所得の合計金額が1,000万円以下で、年金を受け取る人の年齢が65歳未満の場合、公的年金と退職年金などの合計額が60万円まで非課税(65歳以上は110万円まで)です。
60万円を超えた場合、収入額に所定の割合をかけた金額から、一定の控除額を引いた金額が課税の対象となります。
例えば、年間で260万円の退職金を受け取る場合、雑所得の金額は以下のとおりです。
◯課税の対象となる雑所得の金額
=収入金額の合計×75%-27万5,000円
=260万円×75%-27万5,000円
=167万5,000円
よって167万5,000円に、所定の税率をかけて所得税や住民税が計算されます。
65歳から年額240万円の公的年金が支給され、収入額が合計で500万円となる場合、課税の対象となる雑所得の金額は以下のとおりです。
◯課税の対象となる雑所得の金額
=収入金額の合計×85%-68万5,000円
=500万円×85%-68万5,000円
=356万5,000円
一括受取と分割受取はどちらが得か
結論からいえば、退職所得控除が適用される一括受取のほうが、退職金の手取り額は高くなります。
分割受取の場合、支払われていない退職金は1〜2%程度の年率で運用されます。そのため総収入金額は、分割受取のほうが一括受取よりも高くなるのが一般的です。
しかし分割受取では、退職所得控除が適用されません。また退職金を分割で受け取り年間の合計所得が増えると、税金や社会保険料が増えるため手取り額は減ってしまうのです。
退職所得控除を考慮しながら、一括受取や分割受取の割合などを考えると良いでしょう。
特に複数の退職金がある場合は受け取り方のタイミングなどで手残りが変わってきます。
分割受取を選択するなら公的年金を繰下げ受給するのも方法
退職金を一括で受け取ると、必要以上に使い込んでしまわないか不安な方もいらっしゃるでしょう。もし退職金を分割で受け取る場合は、公的年金の繰下げ受給制度を利用する選択肢が考えられます。
繰下げ受給とは、本来であれば65歳である公的年金の受給開始年齢を、66〜70歳までに遅らせる制度です。繰下げ受給を選択した場合、受取開始年齢に応じた増額率が、一生涯にわたって適用されます。
例えば公的年金の受給開始年齢を70歳に繰下げると、公的年金の受給額が生涯にわたって42%増えます。退職金を60〜70歳まで分割で受け取る場合、公的年金を70歳から受給するのも選択肢の1つです。
退職金の受け取り方はお金の専門家に相談しよう
退職金の手取り額は、一括受取のほうが多い傾向にあります。しかし一括受取が正解とはいいきれません。手取り額が減っても、年金で受け取りたいと考える方もいらっしゃいます。
退職金の受取方法を決めるためには、公的年金の受給額や老後のライフプランなど、さまざまな要素を踏まえて検討することが大切です。
しかし、専門家でない限り公的年金の受給見込み額や老後生活の収支、税負担などを試算するのは難しいでしょう。そのため退職金の受取方法を決めるときは、税理士やファイナンシャルプランナーに相談するのがおすすめです。
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